ビーコンデータを用いた建築空間内の行動推定
建築空間をより良く設計し、運用していくためには、人が実際に建物の中をどのように移動し、どこに滞在しているのかを把握することが重要です。しかし、屋内ではGPSが使いにくく、高精度な位置計測には高価な設備が必要になることも多いため、現実の建築空間で人の動きを継続的に捉えることは簡単ではありません。本研究では、こうした課題に対して、手軽に導入できるBLEビーコンのデータを用いながら、建築空間内での人の行動を推定する方法を検討しています。
用いるデータは、部屋ごとに設置されたBLEビーコンから得られる反応履歴ですが、この種のデータは、観測がまばらでノイズも多く、そのままでは人の動きを十分に再現できません。そこで本研究では、建物の形や移動の連続性といった条件をうまく取り込みながら、部屋レベルの粗い観測データから、メートル単位で連続的な移動軌跡を復元する手法を提案しています。こうして得られた軌跡データを用いることで、建物内のどこがよく使われているのか、どこで人が速く歩き、どこでゆっくり動くのかといったことを、実際の行動に基づいて分析できるようになります。
実際の建物で取得された大規模データに適用したところ、建物の構成や部屋の配置を反映した利用の偏りや、開放的な場所と閉じた場所の違いが歩行速度に表れることなどが確認されました。これは、平面図を見ただけでは分かりにくい、建築空間と人の行動の関係を、データから読み解けることを意味しています。本研究は、ノイズの多い屋内センサデータを、建築の評価や改善に役立つ形へと変換し、実際の利用実態に基づいて建築空間を捉え直そうとする試みです。

