他者の視認と視線の非対称性に基づく展示空間の評価
美術館や展示空間のように、多くの人が同時に滞在する場所では、作品そのものだけでなく、他者の存在も空間体験に大きな影響を与えます。人は展示を見るとき、なるべく落ち着いて鑑賞できる位置を選ぼうとしますが、その際には、他者が視界に入りすぎないことや、自分自身が他者から見られすぎないことも重要になります。本研究では、こうした展示空間における人と人との関係に着目し、視線の交わりを手がかりに空間を評価する方法を検討しています。
ここで重要なのは、視認には非対称性があるという点です。自分が他者を見やすいことと、他者から自分が見られやすいことは、同じではありません。本研究では、この違いを明示的に扱いながら、展示空間の中で人がどこに位置するとよいか、また、同時に何人まで快適に受け入れられるかを、数理最適化によって分析しています。さらに、人数が増えたときに、空間全体としての視認量を重視するのか、あるいは特定の人だけが強く見られてしまう状況を避けるのかによって、望ましい配置が異なることも調べています。
実際に、仮想的な展示空間だけでなく、軽井沢千住博美術館のような実在空間にも適用することで、展示空間が何人まで視線の交差なしに受け入れられるか、人数の増加とともに視認量がどのように増えるか、そして人が集まりやすい場所・避けられやすい場所がどこに現れるかを読み解くことができます。本研究は、空間の形や展示の配置が、人の感じる居心地や鑑賞体験にどのように関わるかを、視線の関係から捉え直そうとする試みです。


